2006年02月01日
再就職支援は「人ごとじゃなかったから」
2005年10月1日、専務から社長に昇格した。求人誌「salida(サリダ)」を発行する企業のトップ。
30歳以上を対象にした特集を定期化するなど、女性の再就職に注力してきた。「だって、人ごとじゃないから」。一歳の娘を抱える専業主婦だったころ、離婚で自立を迫られ37歳で仕事を再開。以来、営業一筋で生きてきた。悩む女性の姿は、自らの人生と重なって見える。
20年前。子持ちの三十代の女性が再就職をしようと思っても、事務職の口はない。見つけたのは、生命保険と求人広告の営業員の仕事。大学でグラフィックデザインを専攻、広告代理店に勤めていた経験から「土地勘のない保険よりは」と、求人誌の広告を手がける求人案内社に入社した。
アポイントなしで訪ねる「飛び込み営業」では、まず雑居ビルの最上階まで上がり、事業所の扉を一軒ずつたたきながら階段を下りていく。「いらない」「忙しい」と門前払いを何度もくらった。外に出たとたん涙があふれる。「娘を育てるために頑張らなければ」と化粧を直し、再び扉をたたく日々。暑い盛りには、腕時計をはずすとベルトの部分の肌が真っ白にみえたほど日焼けした。
支えになったのは、会社の壁に張ってあった「もっとも優秀なトップセールスレディーの条件は、もっとも断られる数の多い人」という言葉だった。最初は意味がわからなかったが、「断られる数が多い人は、アプローチの数が多い」と気付いたとき視野が開けた。度胸もつき、十八ヵ月連続で全社員中成績1位の記録を作った。
「年だから」「子持ちだから」は人間性や能力とは関係ない
入社して6年後、求人案内社を学生援護会が吸収。グループ企業のサリダ・アドが事業を引継いだ。昨日までライバルだった会社の傘下で働く。「複雑な思いだった。でも、ついてきてくれる部下がいたから頑張れた」
管理職になってから、育てた部下が辞めていくときはつらかった。「何回も泣いた。思い入れを込めて人を育てるのはやめよう、とまで思った」。そんなとき、上司に言われた言葉が忘れられない。「かけた情は忘れろ。でも受けた恩は忘れるな」。見返りを求める気持ちを捨てて、気が楽になったという。
サリダのコンセプトは「エイジフリー」。「年だから、子持ちだから」といった条件は、本人の人間性や能力には関係ないという思いを込めている。「働く意欲や姿勢が何より大切。20年間の経験から、自信を持って言える」。今後、団塊の世代が引退し、労働力不足が顕著になる。「中高年の女性がもっと働ける社会にした。女性自身、どんどん再挑戦してほしい。一緒に社会を変えていきましょうよ」
*じぶん時間*
大学生の娘、94歳の母親と同居している。育児を手伝い、支え、見守ってくれた母。娘は「お母さんのように一生仕事をしていきたい」と話すようになった。仲のよい、女三人の暮らし。「居心地がとてもよくて、再婚しようという気には全然ならなかった」と笑う。
最近見つけた趣味は三味線。仕事で出会った女性が、たまたま三味線の名取だったのがきっかけで、門をたたくことにした。多忙なため、これまでは趣味にあまり時間を割いてこなかった。「そろそろ、年を取っても楽しめるものを見つけなさい、という神様のお告げかしら」
日本経済新聞 2005年10月掲載 「キャリアの軌跡」
日経ビジネス人文庫 2006年2月1日 「男にナイショの成功術 50人のキャリアの軌跡」 第1刷発行
Posted by midori
at 00:00
│日経新聞



